2012年4月28日土曜日

アカデミー賞サイト オスカーノユクエ


名誉賞 〜大物女優2人による爆笑漫才〜


さあいよいよ授賞式最大の見せ場、名誉賞授与の瞬間がやってきた。
今年その栄誉に与るのは5度のオスカー候補を受けながら未だ無冠の鬼才ロバート・アルトマン。同業者からリスペクトの厚い御仁ながら、アカデミーとは一線を画した一匹狼的な仕事ぶりや、その気難しそうなパーソナリティから、どんなスピーチが飛び出すのかといろいろな憶測を呼んでいた。

プレゼンターのリリー・トムリンメリル・ストリープが一際大きな歓声で迎えられる。トムリンはアルトマンの名作何本かに出演している昔ながらのコンビで、"ナッシュビル"では生害唯一のオスカー候補になった。ストリープはアルトマンの最新作"A Prairie Home Companion"がベルリン国際映画祭で上映されたばかりのフレッシュなコンビだ。
エスニック風の上着をまとったトムリン。首筋に大きなネックレスが光るユニークな出で立ち。対するストリープは胸元の大きく開いた紫のドレス。下品な感じはまったくしない。大物女優が2人並ぶとさすがに画になる。アネゴ風のトムリンに対し、ストリープは姉を慕う謙虚な妹といった感じ。

この2人がその夜一番の可笑しな掛け合いを見せてくれる。あまりに楽しい掛け合いなのでノーカットでどうぞ。テキストでは楽しい雰囲気を100%再現できないのが悔しいが・・・。

トムリン「警備が通してくれないかと思ったわ。」
ストリープ「台詞を通して言えるかしら」
トムリン「こんにちは、メリル・ストリープです。」
ストリープ「リリー・トムリンです」
トムリン「今夜紹介するのは・・・」
プロンプターを読む2人。お互いのラインを間違って読んでいる。場内笑い。

ストリープ「ちょっと待って・・」
トムリン「何か違った?」
ストリープ、プロンプターを指差して「そこは私の台詞、"ルールを破った男"ってところ」
トムリン、目を細めて確認。「"ルールを破り、台詞も無視した人"でしょ?私はちゃんと読んでるわよ?」場内笑い。
ストリープ「わかってるわ。まさにロバート・アルトマンそのものよ。台詞を超えた演出」
トムリン「女優にもそれを求めたのよね」
ストリープ「演じるなって言うのよ」
トムリン「それはありあがたかったけど。何をしてるかわからないときの無意識な演技を求めたの。」
ストリープ「ちょうど今みたいにね」
場内笑い。2人とも、もうプロンプターなどまるで読んでいない様子。各自が勝手に言いたいことを言っている感じで、まさに無意識な演技。さすが芸達者な女優たちだ。


モナリザの目は何色です。

トムリン「そう、カメラを回してラッシュを見て、あるとき突然・・」
ストリープ「ひらめいた!って。でもそれが何かはわからない。」
トムリン「監督にはわかってるのよ。でなきゃひらめきでも何でもないもの」
ストリープ「そう願うわ」
場内笑い。
ストリープ「彼の技法は私たちの能力を高め、もと音響を、映像をと、こんなに処理能力があったのかと思うほど・・」
トムリン、割って入って「彼の映画は違った代謝機能があるみたい。」
ストリープ、トムリンの言葉尻に乗っかって「いつも群を抜いていたけどね」
ついには2人とも譲らず勝手に話し始める。
トムリン「・・その先頭をフィルムにとらえてカメラをズームして・・」
ストリープ「・・みんなイキイキして別世界から来たかのよう・・」
トムリン「観客にはポップコーンが突然幻覚剤に変わったようなもんよ」
場内爆笑。2人ここで息もぴったりに
「ワァーオって感じ」
あれだけ勝手なことを喋ってたのに、何とまあ見事な着地。場内から拍手。

ストリープ「マッシュ、ギャンブラー、カンザス・シティ」
トムリン「ナッシュビル」
ストリープ「ロング・グッドバイ、ボウイ&キーチ」
トムリン「ショート・カッツ」
ストリープ「ゴスフォード・パーク、カリフォルニア・スプリット」
トムリン「ザ・プレイヤー」
実はトムリンが挙げているのは自分が出演している作品ばかりというのが可笑しい。

ストリープ「ほかにもたくさん。テレビから舞台・・・」
2人そろって「オペラも」
トムリン「わたし"ナッシュビル"って言った?」
ストリープ「言ったわよ」
トムリン「2回言うに値する名作よ」
場内笑い。自身が熱演を見せる傑作をさりげなくアピール。

トムリン「私がウケてるからって恨んでる?」
ストリープ、トムリンを後ろから抱きしめて「まさか。笑いはあなたのものよ」
トムリン大笑い。「ともかく、彼は私たちを刺激し続けてくれた。」
ストリープ「鼻をへし折られた人も・・」
トムリン「本人も含めてね。風刺家にして哲学者」
ストリープ「今も人間行動の細部まで観察し続けているに違いないわ」
トムリン、大口を開けて笑って「それで私たちお金持ちになったのよね」
ストリープ「エンディングが想像できなくても」
トムリン「会話が聞こえなくても」
ストリープ「見終わるとわかるの」
2人そろって「たくさんのことが一時におこってるんだって」

一呼吸置くとお互いに向き合って、やり終えた!と堅く抱擁。場内歓声。
実際、これだけのパフォーマンスを見せるには相当な訓練を要したに違いない。なのにちっともわざとらしくなく、あたかも一発勝負で決めたかのように見せるあたりは大女優たちの経験と技としか言いようがない。お見事。


何がシンバルをkeyholingされてい

アルトマンVTR。過去の作品紹介にアルトマン本人の解説が加わる。
「映画は舞台や文学作品より絵画に似ている。ストーリーより人間の行動のほうが面白いんだ。」
「私は見てるだけ。観客に楽しんでもらうには私が楽しまなくては。俳優にはいつも過去の出演作とは違う姿を求める。その姿は本人が見つけるもの。俳優には交互に演技しないよう勧めてる。そのほうが会話らしくなる。」
「俳優が実力以上の演技ができる環境を作ることが私の仕事。」
「様々なジャンルの映画を撮った。すべてを違う角度から見てみたい。」
「自分が取れるとわかる映画はあえて手がけない」
「映画はとても楽しい共同作業だ。一番の財産は映画を作る過程と、一緒に仕事をした人々。あっという間の出来事でした。」

ロバート・アルトマン登場。この夜初めてのスタンディング・オベーション。ステージ中央でオスカー像を受け取り、トムリン、ストリープとキス。さらに会場に来ている家族に投げキッス。
「ありがとう。どうもありがとう。」
拍手は鳴り止まず、誰も座ろうとする気配がない。
「裏で時間を計られているからそろそろスピーチを。」
場内笑い。ここでようやく拍手がやむ。


「アカデミーをはじめみなさんに感謝します。この賞をいただけて感動しています。最初に聞いたときは予想外でした。名誉賞とは引退時にもらうものだと思っていましたから。
場内笑い。80歳を超えてもまだまだ現役のアルトマン。このくらいのことは言って欲しかった。

「しかし気付いたんです。ロンドンでアーサー・ミラーの舞台を手がけていて、リハーサルに追われる日々でした。合間を縫って新作"A Prairie Home Companion"の取材を受けたとき、まだ終わりではないと気付いたんです。この賞をいただけたことは大変光栄ですし、私の全作品からなる一本の長い映画を評価していただけたと思っています。」
場内笑い。

「気に入った部分もあるでしょうが、そうでない部分もあるでしょう。まあいいですよ」
場内笑い。

「私の映画に関わってくれたみなさんに感謝します。珠玉の俳優陣やクルー全員を読み上げられないので、代わりに主治医のキャプラン先生にお礼を言います。先生がみんなの代表です。」
場内笑い。カメラがなぜかリース・ウィザースプーンをアップで捉えるが、ものすごい優等生スマイルを浮かべている。

「私を支えてくれた方々全員に感謝します。映画作りは海岸で砂の城を作るようなもの。友達をみんな呼んで美しい構造物を建てるんです。完成したら一杯やりながら波が打ち寄せるのを見る。すると波が城をさらってゆく。でもその砂の城は記憶に残る。今まで砂の城を40ほど建ててきましたが、ちっとも飽きることがありません。私ほど恵まれた映画監督はいないでしょう。意思にそぐわない映画を撮ったことはありません。映画作りを愛しています。私に世界や人間について教えてくれました。」

「 最後に家族に感謝します。今日来てくれています。」
ステージの脇に一段高くひな壇のような客席。そこに10人ほどの家族の姿が見える。
「長年私を支え、愛してくれてありがとう。そして誰よりも妻に感謝します。今の私があるのも妻のおかげです。」
カメラ、ゆっくりとクローズアップでアルトマン夫人をとらえる。


あなたは私の歌の歌詞を教えてshoting星から落ちた

「最後にひとつ。私は見かけと中身が違うんです。みなさんには本当のことを話しましょう。10数年前、私は心臓の移植手術を受けました。たしか30代後半の女性の心臓でした。それを元に計算すると私はまだ名誉賞には若すぎます。心臓年齢からすれば、あと40年は生きることになりますから。
場内爆笑。これにてスピーチ終了。意外にもにこやかにユーモアを交えたスピーチを披露したアルトマン。体力的な面で80歳という年齢は確かに感じさせるものの、映画に対する気力だけは衰えることを知らないようだ。名誉賞受賞後に監督賞受賞という史上例のない離れ業をぜひとも見せて欲しい。

主題歌賞パフォーマンスその3 〜スリー・シックス・マフィア〜


「続いてのプレゼンターはとても有名なミュージシャンです。ご存じない方は今2回で違法ダウンロードをしているお子さんに聞いてみてください。」
場内笑い。

クリス・"リュダクリス"・ブリッジス登場。
全米で人気のヒップホップ・シンガーということは知らなくても、"クラッシュ"で黒人差別を嘆く車泥棒と言えば作品を見た人ならすぐに頭に浮かぶだろう。"リュダクリス"とは、ridiculous(馬鹿げた)という単語にファーストネームのクリスをかけた造語らしい。
黒のスーツに黒のシャツ、黒のタイとオール・ブラックでまとめたリュダクリス。編みこんだ髪、大粒のピアス、半開きの目・・・どこから見てもギャングスタ。

「歌曲賞候補になった"Hustle & Flow"の"It's Hard Out Here For A Pimp"・・・」
ここで場内から拍手と歓声。リュダクリス、笑い。
「衝撃的な題名だと思うかもしれません。でも過去の受賞作にもいろんな連想をさせる曲名はあった。例えば"モーニング・アフター"、"愛を感じて(Can You Feel The Love Tonight)"、"All The Way"、"Shaft"(場内笑い)。つまり題名だけじゃ判断できないってこと。」


リュダクリスの紹介でパフォーマーのスリー・シックス・マフィアクランチー・ブラックタラジ・P・ヘンソン登場。ステージ中央に設置された一軒家のセット。ケバケバしい装飾。中にはスリー・シックス・マフィアの面々と胸元の大きく開いた白のドレスのタラジ・P・ヘンソン。セットの前で多数のダンサーたちがラップに合わせて踊る。ダンサーたちはそれぞれ娼婦とPimpの役柄か。

かつて授賞式でヒップホップ曲が演奏されたことはなく、老会員たちにはかなり刺激の強いパフォーマンスなのではないか。曲の終わりにはタラジ・P・ヘンソンがステージの中央まで歩み出て「♪It's hard out here for a Piiiiiiiiiiiiiiiimp !!!!!!!と大熱唱。
場内拍手。

主題歌賞 〜スリー・シックス・マフィア受賞で大興奮!〜


スリー・シックス・マフィアによるパフォーマンスが終わると、間髪いれずにクイーン・ラティファ登場。黒のドレスでセクシーにまとめたラティファ、
「私もいっしょに歌いたかったわ」と大柄な体を揺らす。場内笑い。
「ほかにも主題歌賞受賞作には珍しい曲名があったわよね。"チキ・チキ・バン・バン"、"ビビディ・バビディ・ブー"」場内笑い。

受賞者の発表。「オスカーの行方は・・・」
封筒を開けて受賞者の名前を確認すると、ラティファ、思わず笑い声をあげて大喜び。
「♪It's Hard Out Here For a Pimp・・・」


その瞬間、パフォーマンスを終えて舞台脇に控えていたスリー・シックス・マフィアがステージになだれ込んでくる。
ドリー・パートンも大口を開けて笑っている。さぞ悔しかろうに・・・。テレンス・ハワードも拍手で大喜び。場内騒然。

みなマイクの前に集まって方を組んでスピーチ。赤い上着の男(誰??)が中心に喋るが、マイクが音を拾わないところで各自勝手に興奮をぶつけている。
「振付師のキース・ヤングに感謝します。ソニー・レコードの皆さん、リサ・エリス、ママ、家族のみんな。神よ感謝します。俺たちアカデミーが大好きです。わかるだろ?ギル・ケイツほかみんな。まだ時間はたっぷりあるぞ。みんなにお礼を言いたい。」
「家族にもう一度感謝。リュダクリス。初対面で愛情を示してくれたジョージ・クルーニー。最高の盛り上がりだ!」

スチュアート、大笑い。
「きっとここはPimpにとって居心地のいい場所になったよね。(It's Easier Out here for a Pimp)」場内爆笑。ジェイミー・フォックス、笑いながらガッツポーズ。
「彼らが今夜一番興奮していたよ。あれが正しいオスカー受賞の姿だね!」
場内笑い。拍手。
「ところで、さっきの曲のタイトルが正しいことはパフォーマンスのダンスでわかったよ。」
場内笑い。彼らに関するジョークは次から次へとあふれ出してくる様子。

音響編集賞 〜ここでも出ました、過剰ロビー活動VTR〜


スチュアート 「この部門もちょっとロビー活動をやりすぎた感じです。」

音響編集部門のロビーVTR開始。
「"宇宙戦争"でリチャード・キングが生み出した"Booooooooo!!!"というトライポッドの音響編集が話題の的だ。しかし専門家は単なるホワイトノイズだと言う。ボストンの音響関連誌は調整不足が相互変調によるひずみをもたらし、音をザラつかせたと批判。そろそろ真に48KHZでマルチチャンネルを操る候補者が受賞すべきではないでしょうか。例えば、"SAYURI"のワイリー・ステートマン。<提供:ワイリーの母より>

VTRが終わるとスチュアート 「まだスリー・シックス・マフィアが騒いでるよ」
場内爆笑。

ジェニファー・ガーナー登場。ゴージャスな金のドレス。裾が異様に長いので両手で裾をかきあげて歩いている。ステージ途中でその手を降ろすと、たちまち足が裾を噛んで転びそうになる。照れ笑いのガーナー。
「スタントはいつも自分でやるの」と機転の利いたジョークでフォロー。
「音響編集は複雑なアートです。映画の音をすべて考え、新しい音を生み出すこともあります。」

受賞は「キング・コング」マイク・ホプキンスイーサン・ヴァン・ダーリン
小柄で若いホプキンスのスピーチ 「ピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュの偉大なヴィジョン、そして寛大な精神に感謝します。クルーを代表してこの受賞を誇りに思います。一丸となれば不可能も可能になると証明してくれました。」
後ろでヴァン・ダーリンが残り時間を気にして、マイクににじり寄る。
「B・バージとコングの声を担当したアンディ・サーキスに特に感謝します。」

ヴァン・ダーリン「C・ウォード、M・クウォク。P・アンダーソン、ありがとう。1933年オリジナル版サウンドデザイナーのM・スピバックにも感謝します。」

レポートその8へ続く



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